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 先ほど速報で、いわゆる「大阪都構想」をめぐる住民投票は、反対多数で否決との結果を聞き大変安堵いたしました。大阪市の住民は、かなり冷静に内容を見極めての判断だったように思います。逆説的ながら、全国的に「地方自治」を再考する良い機会にはなったと思いますので、大阪の方々のご努力に敬意を表するものです。

 東京の住人であり都議会議員という立場の私が、大阪の行く末に口をはさむのは予断を与えかねないとの思いから、当ブログで今までこの問題に言及することはありませんでした。しかし、この「大阪都構想」なるものが、地方自治の側面からきわめて大きな危険性をはらんでおり、将来に禍根を残すことが目に見えていたので、その結果を注視していました。

 いわゆる「大阪都構想」の内容はすでにいろいろなところで言及されていますが、私の感じる最大の問題点は、「変えることを目的化」したことです。現状を変えること、それは橋下流に言えば「大阪都構想」の実現でしか大阪の未来はない、というものですが、それは「革命理論」のようなもので、その先のことはわからないけれどもとりあえず変えてみよう、ということ。その結果、制度設計において大きな矛盾をつくり出すことになりました。例えば、「一部事務組合」に国民健康保険や介護保険、水道、住民情報システムなど、120もの過剰な業務を負わせることです。二重行政を解消するために東京都の制度を横引きして、府と自治権をもった特別区を置いたのは一つの制度論としては成立するものの、広域行政の方が効率が良いと思われるものを、「大阪都構想」では全て一部事務組合に投げ出しました。このことの意味を理解している人はどのくらいいるのでしょうか。「一部事務組合のことなど、小さなことだ…」と言った橋下市長の見解を聞いていると、この方も実は一部事務組合のことをほとんど理解していないことがわかります。一部事務組合とは、地方自治法に規定された複数の自治体による行政事務を処理するための制度の一つで、東京にも清掃一部事務組合や特別区競馬組合などがあります。私は長年一部事務組合を見てきているからこそ、危険だな…と思っていました。なぜならば一部事務組合は、地方自治体と同じ権限を持ち、組合議会が組織されます。議員は構成する自治体の議会から選ばれますので、住民の直接選挙によって選ばれるわけではありません。つまり住民の意思を間接的に反映する制度の中で方針が決められ、業務が執行されるということ。しかも自治体と同じく自治権をもっているので、議決されたことは決定事項となるのですが、例えば清掃一部事務組合の議会がいつ開かれ何が決められているのか、知っている都民は何人にいるのでしょうか。特別区が運営している組合ですから、都議会もその埒外。都議会議員である私も知りません。一部事務組合には、住民の関与が極めて効きにくいという側面があり、120もの業務を負わせるとなれば、膨大な職員を抱えることになるでしょう。二重行政を解消しようとしたら三重行政になってしまった…。しかも住民の手の届かない新たな大きな組織(役所)が誕生し…。そんなバカげたことが起こる可能性があったのです。

 このこと一つをとっても、「大阪都構想」の制度設計の粗さがわかります。東京都においては、いまだに都と区の権限と財源の議論は444項目の課題を挙げたまま続いており、自治の権限と財源をめぐる議論には終わりがありません。どのような制度も完璧なものでない以上、不断の改革努力は必要でしょう。しかし一つの改革で全てがバラ色になることなど、ありえないのです。大阪の二重行政の問題は、府と市がそれぞれ胸襟を開いて問題点を洗い出し、再び協議の場を開いて真摯に話し合うところから始めるべきでしょう。一方の理論だけを押し付けようとしても、それでは話はまとまりません。東京は長年にわたる議論の積み重ねで今の形になりました。その苦悩や努力なしに、ことを成し遂げようとしてはならないと結論を出したのが、このたびの住民投票であり市民多数派の意思だったと考えるべきです。

 民主政治には時として、不満やうっぷんを晴らすかのような奇策によって人気を得る人が登場します。「抜本的」「構造的」「全面的」などの形容詞を付けた改革議論は、こと政治においては注意を要します。大阪の地方自治制度に問題があるのだとすれば、議会を通じて、「愚直に」「地道に」一つずつ問題を解決すべきです。最後は住民投票で白黒つけるようなやり方は、おそらく市民を幸せにするものではないと感じます。

 ところで、「大阪都構想」賛成の立場で、大阪に行った東京23区の区長さんが複数いたようです。私は都議会自民党都区制度改革推進政策研究会の会長として、その区長さんたちの真意を聞いてみたいと思います。そしてまずは、現在滞っている都区制度改革の検討事項を早急に議論の俎上に上げ、特に23区の区域再編は避けて通れない課題ですから、これを機会にぜひ議論を始めていただきたいと申し上げたいと思います。

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